あらためてFinal Cut Pro Xを考察する

NAB2011のFCPユーザイベントSuperMeetSneak Previewされて、2011年6月21日にApp Storeに登場したFinal Cut Pro X(以下FCPX)。登場当初は、各所で非常に厳しい意見があったが、僕は好意的に受け止めていた。もちろん、機能的に至らない点は確かに存在していたし、すぐに使えるソフトだったか?と言われればそこにはエクスキューズがあったのも事実。そして、Final Cut StudioがFCPX発売と引き換えに市場から消えた(Appleに詳しい人なら、新製品とともに旧製品が消えるのはご存知の通り)。これには多くの混乱を呼びその後、AppleはFinal Cut StudioをオンラインのApple Storeでひっそりと再販(オペレーターにつなぐ形での販売)。従来通りApple伝統のやり方にこだわっただけではあるが、もう少しやり方はあったかと思う。その後もFCPXは改良を繰り返し、登場から1年半程であるが、既に10.0.7というバージョン番号になっている。

ノンリニア編集ソフトを作るというのは想像するだけでも難しい。まして、世界で最も売れたプロ用編集ソフトの一つである「Final Cut Pro」という名を冠したソフトであれば尚のことである。多くのユーザがFinal Cut Proを使って飯を食べていたのだから、尚敏感になるだろう。

ただし、どんなにFinal Cut Proのノウハウがあっても、Appleと言えども、新しい概念のFCPXは一筋縄ではいかなかった。確かにそう簡単にはいかないだろう。プロ用編集ソフトは本当のニーズの汲み取り方が難しいと思われるし、新しいFCPXともなれば期待の大きさが半端ないだろう。そしてユーザは、我慢して成熟するのを待ってはくれなかった。最初からFCPXに成熟したレベルを期待していた。確かに、既にFCP7の実績、成熟度があるわけで、それを下回ることはないと普通思うだろう。

ただ、FCPXは今までの概念と全く違うベクトルで発想されて作られていたので、既存のユーザが見ている機能延長的な視点でのバージョンアップとは全く違った。全く別物のソフトとして受け取るべきだった。同じFinal Cut Proという名前はつているが。

FCPXは、ビデオをベースとしていたユーザ(放送用HDCAMや、HDVを使用しているユーザ)から、ファイルをベースとしているユーザ(デジタル一眼をはじめとしたユーザ)に向かって作られている事が大きく違う。そして、ファイルをベースとしているユーザは、ビデオをベースとしていたユーザと比べて、ユーザレンジが大きい。既に、ビデオベースのユーザにはFCP7は行き届いていたし、これ以上ユーザが増加する幅も小さいというビジネス上の都合もあって、新しい層に対するアプローチが必要だったとも思われる。そこで、FCP7などの従来の編集ソフトから、一段と敷居を下げる必要があったし、確実にニーズが上昇していたファイルベースのカメラを使っている人達にも使いやすいシンプルに編集作業に入れるソフトの必要があった。それまでの、FCP7も含む編集ソフトでは、トランスコードの繰り返しと、メディアファイルの扱いにノウハウが必要であったが、FCPXでは取り込みと共にプロキシメディアを作って、編集レスポンスを損なわないようにしたりという工夫がある。そういう方向性から作られていたから、FCP7ユーザは困惑したのだろう。
どんなソフトも、かつてのFinal Cut Proもそうだった様に、バージョン1には、未成熟な部分が多い。同じFinal Cut Proという名はついているが、全く新しいソフトとしてFCPX見ると、登場時至らない部分が多かったとしても止むをないのではないだろうか。しかし、Appleがここから違ったのは、今までのAppleのソフトウェアと違い、FCPXは次のマイナーバージョンアップのアップデート内容、おおよそのリリース時期を出した。Appleが公に先々のプランを公開することは異例な事だ。それだけそれまで放送・映画業界のプロ達に対しても真摯に向き合ったと思っている。そうやって少しづつ改善を重ね、わかりにくいと言われてたシングルウィンドウに対してダブルウィンドウにも対応し、成熟を重ねて行った。

去年秋前にFCPXを買ったが、なかなか触る時間を作れず、12月にやっとアップしたMy hometown 4. Tokyo Sumida-kuがまずは自分的に使ってみたという実例になった。まだまだFCPXに対して理解を深めておいた方がいいなと思う機能も多く、それらも少しづつまとめていきたい考えているが、基本的素性は悪いと思っていない。

まだ、機能が足りないという人もいると思うが、FCPXがマイナーバージョンアップを重ねている時間、世の中も少しづつ変化を進めている。ファイルベースのカメラはどんどん増えていくし、ユーザ層も拡大している。少しづつ世の中の実情とFCPXの方向性も沿う様になって来た。今後もまだまだ改良は重ねて行くと思われるが、FCPXが見る未来がどういう未来かは、注意深く見ていく必要がある。

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